2009年2月15日日曜日

第1ターム終了

第1タームが終了した。MBAの授業とはどんなものなんだろう?という大変新鮮な気持ちで臨んだ第1ターム。欧州MBAということで、ほぼ毎日必ず1日3セッションの授業があり、授業、グループワーク、昼寝、自宅学習のサイクルが延々と続いた。土日も少なくともどちらか一日は予習に全てを使うことになった。それでも、次第にこの生活パターンにも慣れていった。人間とは、適応する動物である、ということはやはり正解なのかもしれない。

日本は未曾有の大不況であると聞いている。もちろん欧州も不況である。こうした経済に大嵐が吹き荒れている中、自分はその現場を離れ、勉強に打ち込むことが出来る環境にある。一方、こうした経済情勢下、現場に身を置かないことはむしろ自分自身を鍛える機会を失うことである、という考えもあるかもしれない。しかし、やはり客観的な視点に立って、世の中のこと、自分のことを考えられる今という時間は自分にとっては大変大切なものであると考えている。

さて、この第1タームに学習をした科目について、振り返ってみることにする。

①Financial Accounting

これは会計、財務分析の基本的な知識を習得するものである。会計については、各勘定科目について学習をしながら、仕訳から始まり、簡単な財務諸表を作るところまでやる。また、ROE、ROI、ESP、自己資本比率等の指標、リース、ボンド、減価償却、在庫計上における複数の会計処理方法…等々を用い、どのように企業の財務状況を分析するか、についても学習する。有名なエンロンやWorld Comの不正会計問題などもこの過程で採りあげられた。自分の業務の一つは財務分析であったが、それでも会計の専門家ではないので、体系的にもう一度学習できたことは有意義であったと思う。ただ、授業は教科書に書いてあることをなぞっただけだったので、ちょっと退屈だった。

②Organizational Behavior

組織における様々な局面において、経営者、もしくは管理職として、どのような行動を採ることが望ましいのか、各国の文化的背景、人間の行動パターン等と共に学習するもの。例えば、世界企業であれば、世界各国に現地法人があるわけだが、現地社員をどのように扱うことが望ましいのか、等々。授業では何度か、学生同士マネージャー側と部下側に分かれて互いの意見を言い合うシミュレーションを行う機会があった。教授としては、理解のきっかけになれば、と思って行ったらしいのだが、如何せん時間が5分くらいしかなく、果たしてどれほどの効果があったのかは疑問である。だが、教授自体は感じのいい人だったので、クラスの評価はまあまあだったのではないか。

③Information Systems Mangement

IT(Information Technology)ではなく、IS(Information Systems)。この違いについてだが、ITとはsoftware、hardware、database、telecommunicationで構成されるものだが、ISはこれに加え、process、people、ethic、legalが含まれる。つまり、最も大きなポイントはそこに人が関わるということだ。この授業は”IT doesn't matter”というハーバードビジネスレビューの論文で始まった。ものすごくかいつまんでいうと、多くの企業が必要もないIT投資を行っており、逆に企業のパフォーマンスを下げている。よってITを如何に上手くマネージするかが重要である、ということが述べられている。これは確かにマネージメントにとっては非常に重要な視点であり、同時に大変興味深いものであると感じた。だがこの授業最大の問題は教授である。クラスの多くの学生がこの教授のやり方が好きではなく、期末の教授評価では相当低い評価をしていた。またこの教授の成績の付け方にも大きな疑問が投げかけられている。この授業は100点満点の内、パーティシペーションが30点を占める。自分はここで1点の評価を付けられた。1点ということは実質何もしていないことと一緒ではないか。これには抗議をした。実際自分は散発的ではありながら発言をしていた。だが最終的に点数は5点にしかならなかった。驚いたことに、他にも2点を付けられた学生もいれば、0点を付けられた学生もいる。また、おそらく一度しか発言をしていない学生が14点もらっていたり、bullshit発言連発で有名な学生が最高点をマークしていたりして、クラスは現在騒然としている状況。ラーニングレポートでも「好きなように書きなさい。文章のrichnessが評価基準だ」という曖昧ぶりで、richnessを学生が各々の解釈をしてしまった結果、これまた多くの学生に大きな不満を残している。最悪なのは、我々のグループのプレゼンの評価で、この教授は「タイムマネージメントが出来ていない」とコメントしてきた。しかし実際はプレゼンの最中にこの教授が口を挟んできたために、そのせいで時間内に終わることが出来なかったのである。これにはプレゼンテーターの一人であったフランス人のグループメートが激怒した。最後の最後で質の低い教授に嫌な気持ちにさせられた授業ではあったが、この科目自体はやはり大切なものだと思うので、今後意識していきたいと思う。

④Marketing Fundamentals

Marketingの基本である。3c、SWOT、Segmentation、Targetting、Positioning...所謂マーケティングプロセスの各段階について学習した。この授業は第2タームも継続するので、まだ完了していない。この授業を通して、MarketingというのはArtだな、ということと、正解がある方がおかしいのだろうということを強く感じた。ビジネススクールで学ぶフレームワークはそのまま使えるものなんてほとんどないだろうと思う。一つのマーケティングのフレームワークをとってみても、様々な解釈がある。実際第1タームでは中間試験が行われたが、これはオニツカタイガーのイギリスにおけるマーケティング活動を分析するものだった。オニツカタイガーはイギリスで自動販売機で靴を売っているらしいのだが、この主目的は何か?というのが設問1であった。ブランドイメージの拡大、販路の拡大…いろいろな答えがどうやら出たらしい。教授は正解はない、と言っていた。回答の一貫性如何で評価が変わると。この教授は、レアル・マドリッドのバスケットボールチームのマーケティングマネージャーという経歴があり、実務経験もある。そのためか、現実離れした見解というのは見られなかった気がする。(聴き取りが出来てないだけかも)

⑤Entrepreneurial Management

これも第2タームまで続く科目。IE Business Schoolが最も強いと分野と言われるアントレの授業である。これまでのところ、いかに投資家から金を集めることのできるビジネスプランを作るか、というところに集中している。全くゼロからの起業であって、既存企業の中で行われる所謂コーポレートベンチャーについてはまだ何も授業では行われていない。現状の段階で、学生からは、オリジナリティ溢れるアイデアが飛び出すということはなく、既に存在しているビジネスをスペインでやるとか、日本や韓国ではすでに当たり前になっている技術をスペインに持ち込むとか、アイデアの組み合わせということに留まっている。だがこの授業は段階的にビジネスプランに制約を付していくことになっているようであり、これからはキャッシュフローマネージメント、資金調達の面について考えねばならないらしい。つまりより大胆なアイデアを出しにくくなっていくわけである。自分としては、ファイナンスを無視したビジネスプランというものが信じられなかった。ただアイデアを出し、プレゼンをする様は、まるで幼稚園のようであった。また、人々の購買意欲を促進するためだけのとあるビジネスプランについて、何の疑問もなく授業が進んでいったことにもがっかりした。「このビジネスが人々の生活に本当に役立つものなのだろうか」という視点が論じられることはなかったのだ。それがなければやっぱりビジネスは持続できないのではなかろか、それって一番大切なことなんじゃないか、という気持ちをやはり捨てきれない自分がいる。IEの掲げる「Entrepreneurship」とは何なんだろうか、もう少し時間をかけて探ってみようと思う。この授業の教授はまだ若く、ガリガリやるアグレッシブな姿勢はいいのだが、学生の発言の質を重視というよりは、回数を重視する傾向にあるようだ。

⑥Managerial Economics

マクロ経済学、ミクロ経済学の初歩。マクロ経済は経済指標の読み方、その長所、短所について分析をした。リーダー、マネージャーとして外部環境をある程度分析出来る能力は重要である。その点でこうした経済指標の意味するところをきちんと論じ合うということは良いことだと思う。ミクロ経済は、競争的独占市場までの勉強した。ミクロ経済の理論は大学時代、やたらと数学を使った記憶があるのだが、MBAコースであるためなのか、難しい数式を一切使わず、概念を教えるということに焦点を絞っていたようである。この授業の教授は、JPモルガンのエコノミストであり、Economist誌の論者でもある。学生からの評判も非常に良い。確かに教え方も丁寧でありわかりやすい。知らなかったのだが、IEは経済学の分野で評価が高いらしい。すべての分野でこうした教授がいてくれたらなあ、と思わずにいられない。

⑦Quantitative Analysis for Business

定量分析である。Execlを使って、例えば一定の制約条件の中での製造業における最適生産量を計算したり、過去の統計データを使用して将来の売上を分析したりする。数学は苦手であるが、こういうアプローチは結構好きである。グループワークで宿題を提出する機会が結構あったのだが、グループメートのルノーのエンジンのエンジニアであったフランス人がいつもちょいちょいと解いてくれるので、相当助かった。感謝。この授業の教授は一見ぶっきらぼうなのだが、笑顔がとても素敵であり、学生からは好かれていた。成績評価についても、例えば中間試験で点数の悪かった学生には、日々の宿題の結果を皆の前でプレゼンテーションする機会を与え、晩回のチャンスを与えていた。

総じて感じたことは、どういった視点でこれらの授業に向き合うのか、ということが大変重要であるということであった。自分の場合は、MBAである以上、リーダー、マネージャーとしての視点に立つことを心がけたかった。漠然とした話だが、例えばISの授業のグループワークで、ここで決断したことが最終的に経営全体にどういう影響を与えるのか、ということを考えることが重要ではないかと訴えたことがある。1セールスマンという視点が抜けきっていないグループメンバーもいたのだ。それでも「おい、これはISの授業だぞ」と返されてしまったことがあった。

ビジネススクールで何を学ぶかは、本当に自分次第だと思う。

密度の濃い第1タームだった。第2タームも気の済むまでやろうと思う。

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