実は1月7日から第一ターム後半が始まっているのだが、更新が遅れてしまっている。早くタイムリーな状況に追いつかなければならない。
クリスマス休暇が終わった直後、Organizational Behaviorの授業では自分の所属グループがプレゼンをすることになっていた。2週間半の連休明け、一発目の授業でいきなりプレゼンとは…実際自分は他のグループメンバーで一番英語が下手くそなため、というかクラスで一番英語が下手くそなため、当初このプレゼンでは喋る機会はないはずだった。ところが、もう一人グループメートのカナダ人(彼も何も喋る予定がなかった)が飛行機の遅れか体調が悪いだかで、欠席をすることになってしまった。つまり自分一人だけが前に突っ立ていながら何も喋らないことになってしまったのだ。さすがにばつが悪く、自分も何か喋らなければ!と相当焦った。今回のプレゼンのお題は「モチベーション」についてだった。なので日本人の例を挙げようと思い、前日に急遽何をやるかを考えた。クラスでのポジションがまだ今一確立していない自分としては、他の学生の反応が怖くて緊張して一睡も出来なかった。そして夜通しプレゼンのイメージトレーニングを繰り返したのである。そして、プレゼンの初めにイントロとして軽く「典型的日本人」というタイトルで、日本の職場風景を演じようと心に決めたのだ。
しかし、当日学校に行ってみると、その週のリーダーであるブラジル人が、構成の問題があるので、彼が日本の例を今から挙げるというから、その後に自分が出ていくことになった。ちなみに自分のグループは、毎週グループリーダーが変更になり、リーダーとなった人間は、その週のグループワークのスケジューリング、グループミーティングのチェアマン役、グループミーティングルームのアレンジ等を行うことになっている。このブラジル人の提案は、自分の想定を大きく狂わせた。当初、最初に自分は自分の役割を演じきってしまった後、その後のプレゼンの大部分の時間はリラックスして過ごそうと考えていたのである。ところが、このブラジル人が日本の例をいつ挙げるのか全くわからないため、プレゼン中始終緊張していなければならなくなってしまったのだ。またこの日、最初にプレゼンをする予定であったイタリア人が風邪をこじらしてしまい、プレゼンをすることが出来なくなってしまった。
かくして、波乱含みの中、プレゼンは始まった。(自分にとっての波乱は、自分だけしか知らないが。)同じグループのメキシコ人の女性は、威風堂々とプレゼンを始めた。彼女はメキシコで2番目に大きな銀行でCitiGroupに属している、Banamexという銀行の戦略部門に勤務しており、そこから企業派遣で来ていた。英語の発音もとても綺麗であり、その表情は自信に溢れていた。何より驚いたのは、イタリア人が担当する筈であった箇所を、その場で即興でプレゼンをしてしまっていることである。恐らく内容を全て理解していたのだろう。プレゼンの途中では席でプレゼンをみている学生達に、「あなたにとってのモチベーションは何?」とか余裕の表情で訊ねている。ああ、やっぱりビジネススクールに来ている学生はプレゼンが上手いんだ、と思った。後々、彼女は6歳から英語教育を受け、その後英語圏の国に幾度か留学をしていたことを知った。彼女は現在26歳なので、おおよそ20年間英語に触れてきた。自分も典型的な日本人で中学校1年の時から英語を始めたので、15~16年間英語を勉強してきているわけなのだが、彼女の足元にも及ばない。
バルバトス人、フランス人のグループメートが喋り終わり、ブラジル人の番になった。緊張が一気に高まった。正直この段階まで、プレゼンの内容をほぼ何も聞いていない。最初のメキシコ人の入りがとても上手だったことに衝撃を受けたこと以外は、緊張以外の感情はなかった。落ち着かなくて、始終体を揺らしていた。そしてついにブラジル人が今から日本の例を挙げます、と言った。
あたりは静まり返った。自分は発表の場の中心まで静かに歩き、細めで鋭く観衆の方を向いた。「暴れん坊将軍」で松平健が殺陣をやっているシーンの途中で、必ず悪の親玉をクワっとにらむ瞬間がある。その時に「カーン!」と効果音がなるのだが、まさにそれをイメージしたのである。そしてその後、45度の角度で深くお辞儀をした。これが日本流のあいさつの仕方です、と言った。まだ笑いはない。息苦しい。そして観衆に問いかけた。「お前らクリスマス休暇はエンジョイしたか?お前ら年賀状は書いたか?」と訪ねた。かすかに何人かが首を横に振る。「俺達日本人は年末はつまらねんだ、なぜなら得意先、上司、同僚、みんなに年賀状を書かなきゃいけなくて、それだけで休みが終わっちまうんだよ!」と言った。かすかに笑いが起こった。だがまだ自分が波に乗るには足りない。「嫁さんは俺が休みになると嫌な顔をするんだよ、俺が家にいると料理をしなければならないだろう?」ここでも笑いはかすかだった。おかしい、思ったより笑いがない。大分危ない感じだ。「クリスマス休暇と言ってもつまらないよ。働きづめで、娘が俺の顔を知らないんだ。『Who are you?』って言うんだよ…」観衆の中にはシリアスな顔をして、そうなのか~と感じ入っている人もいた。「それに嫁さんと長い時間いると場がもたないんだよ」結構な数の観衆が笑った。すかさず教授が「それは万国共通だ」と横からコメント。一気にクラスのボルテージが盛り上がった。これには救われた。一気に勢いが出てきた。最後は日本のゴルフで占めた。「日本人は土日を使って客とゴルフをするんだ。こんなふうにね。」自分は、客のスイングのまね、そしてそれを殊更大げさに拍手喝采する接待をする側のまねをした。「いいか、ここがポイント。日本人は目が笑っていないんだ、口だけ。」そして口だけ横に広げて笑う仕草をした。教室は爆笑に包まれた。やった、とりあえずビジネススクールの本コースで一度皆のハートを掴んだ。最後は「こんな風に一体何のために働いているかわからない日本人が多いから、僕はこのOrganizational Behaviorという授業に大きな期待を抱いているのです。」という言葉で占めた。教授は「Yes!!」と力強く肯首してくれた。それと同時に拍手が沸き起こった。終わった…。緊張が解けて足がふらついた…。
席に戻ると、眠気が一気に襲ってきた。朝一のプレゼンの終了と同時に、自分にとってその日はもう終了したのだった。
2 コメント:
初めまして。音楽留学を目指しているTAKADA君の友人のKEISUKEです。
去年まで、そちら商社の物流会社で働いていました。
お話をTAKADA君からはよく聞いていましたので、何度かブログを読まさせてもらってます。MBA留学大変そうですね。私もアメリカの大学出身なので、プレゼンの時の緊張感、分かります。
聴衆の心を掴んだこと、素晴らしいです!
まだまだ留学生活続くと思いますが、頑張って下さい。
Keisukeさん
初めまして。Keisukeさんのお話はTAKADA君より伺ったことがあります。お仕事を辞められて、今は別のことをされておられるのですね。
プレゼンは仕事でも行ったことがなく、僕にとってあまり馴染みのあるものではありませんでした。しかも好成績を残すためにはどうしても英語が流暢な学生がスピーカーを担当する方が望ましいということもあります。実際、ほとんどのグループは英語が母国語の学生がスピーカーを担当していますね。
でも、せっかくの機会なので、聴衆の前でも臆することなくプレゼンが出来るようになりたいですね。頑張ってみます!
コメントどうもありがとうございました!
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